高知地方裁判所 平成4年(わ)89号 判決 1993年1月13日
本店所在地
高知市本町一丁目四番二六号
株式会社浜幸
(右代表者代表取締役 濱田幸広)
本店所在地
高知市横内一七〇番地一
有限会社ワイエム商事
(右代表者代表取締役 濱田幸広)
本籍
高知市新京橋四番地
住居
同市新本町一丁目一〇番二二号
会社員
濱田靖弘
昭和一五年一二月一七日生
右三名に対する各法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官鈴鹿寛出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人株式会社浜幸を罰金四〇〇〇万円に、被告人有限会社ワイエム商事を罰金五四〇〇万円に、被告人濱田靖弘を懲役二年に処する。
被告人濱田靖弘に対し、この裁判確定の日から四年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
第一 被告人株式会社浜幸(以下、被告人浜幸)は、高知市本町一丁目四番二六号に本店を置き、遊技場の経営等を目的とする法人であり、被告人濱田靖弘(以下、被告人濱田)は、昭和五四年六月三〇日から平成三年三月七日までの間被告人浜幸の代表取締役としてその業務全般を統括し、浜田厚進(以下、厚進)は、昭和五八年五月二〇日から平成三年三月七日までの間、被告人浜幸の代表取締役として、本店の売上金の保管・管理をしていたものであるが、被告人濱田と厚進は、それぞれ被告人浜幸の業務に関し法人税を免れようと企て
一 昭和六一年四月一日から同六二年三月三一日までの事業年度における被告人浜幸の実際の所得金額が二億一七〇八万五六二四円で、これに対する法人税額が九一九四万九六〇〇円であるにもかかわらず、厚進において売上の一部を除外したほか、被告人濱田において資産の一部を損金として計上するなどの不正な方法により、それぞれ所得の一部を秘匿した上、同年六月一日、高知市本町五丁目六番一五号所在の高知税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が五七一一万六三三九円でこれに対する法人税額が二二六九万九五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成四年押第二七号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により被告人浜幸の右事業年度における正規の法人税額と申告税額との差額六九二五万〇一〇〇円(被告人濱田による脱税分は、二六二一万四九〇〇円)を免れ
二 昭和六二年四月一日から同六三年三月三一日までの事業年度における被告人浜幸の実際の所得金額が二億六七三七万一六〇九円で、これに対する法人税額が一億一一一一万五七〇〇円であるにもかかわらず、厚進において売上の一部を除外したほか、被告人濱田において架空負債を計上するなどの不正な方法により、それぞれ所得の一部を秘匿した上、同年五月三一日、前記高知税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が七三二二万二三八六円でこれに対する法人税額が二九五七万三一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成四年押第二七号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により被告人浜幸の右事業年度における正規の法人税額と申告税額との差額八一五四万二六〇〇円(被告人濱田による脱税分は、四四二四万二〇〇〇円)を免れ
第二 被告人有限会社ワイエム商事(以下、被告人ワイエム商事)は、高知市横内一七〇番地一に本店を置き、遊技場の経営等を目的とする法人であり、被告人濱田は、昭和六一年一月二〇日から平成三年三月七日までの間被告人ワイエム商事の代表取締役としてその業務全般を統括していたものであるが、被告人濱田は、被告人ワイエム商事の業務に関し法人税を免れようと企て、売上の一部を除外する等の不正な方法により、所得の一部を秘匿した上
一 昭和六二年四月一日から同六三年三月三一日までの事業年度における被告人ワイエム商事の実際の所得金額が一億〇五七五万九七八九円で、これに対する法人税額が四三四二万八三〇〇円であるにもかかわらず、同年五月三一日、前記高知税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が一七五五万五九四九円でこれに対する法人税額が六三八万二六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成四年押第二七号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により被告人ワイエム商事の右事業年度における正規の法人税額と申告税額との差額三七〇四万五七〇〇円を免れ
二 昭和六三年四月一日から平成元年三月三一日までの事業年度における被告人ワイエム商事の実際の所得金額が一億八五五七万二二七一円で、これに対する法人税額が七六九八万〇二〇〇円であるにもかかわらず、同年五月三一日、前記高知税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が八九五万〇四三一円でこれに対する法人税額が二七九万九〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成四年押第二七号の4)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により被告人ワイエム商事の右事業年度における正規の法人税額と申告税額との差額七四一八万一二〇〇円を免れ
三 平成元年四月一日から同二年三月三一日までの事業年度における被告人ワイエム商事の実際の所得金額が二億四五四八万五七二二円で、これに対する法人税額が九七三一万四〇〇〇円であるにもかかわらず、同年五月三一日、前記高知税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が八一七万七〇七四円でこれに対する法人税額が二三九万〇八〇〇円である旨の虚偽の法人税額確定申告書(平成四年押第二七号の5)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により被告人ワイエム商事の右事業年度における正規の法人税額と申告税額との差額九四九二万三二〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示事実全部について
一 被告人濱田靖弘の公判供述
一 被告人濱田靖弘の検察官調書二通(検察官請求番号乙二二、二三。以下括弧内は同請求番号を示す)、質問てん末書一三通(乙三ないし六、八、一〇ないし一七)
一 濱田比砂惠(甲一〇六)、池内義臣(甲八九)の各検察官調書
一 渡辺雅夫(甲六七)、中島信之(甲六八)、溝渕雅彦(甲六九)、小島和章(甲七〇)、井口正倫(甲七一)、藤田二三男(甲七九)、池内義臣(甲八八)、濱田比砂惠(四通、甲一〇二ないし一〇五)、濱田厚進(甲一一〇)の各質問てん末書
一 濱田靖弘個人収支調査書(甲三九)
一 アイウエオ個人収支調査書(甲四〇)
判示第一の事実全部について
一 被告人濱田靖弘の検察官調書三通(乙二四ないし二六)、質問てん末書四通(乙二、七、九、二〇)
一 泉佐智(二通。甲八四、八五)、鳥居照美(甲九三)の各検察官調書(いずれも被告人浜幸関係のみ)
一 市原茂(甲六三)、上田龍太郎(甲六四)、片山優人(甲六五)、梶野史麿(甲六六)、濱中髙(甲七二)、唐岩理(甲七三)、仁井田由里(甲七四)、野口冨美(甲七五)、亀井克己(甲七六)、石川雅義(甲七七)、近森孝明(甲七八)泉佐智(四通、甲八〇ないし八三)、岡林修(甲八六)、鳥居照美(三通、甲九〇ないし九二)、濱田比砂惠(甲一〇〇)、濱田厚進(三通、甲一〇七ないし一〇九)の各質問てん末書(いずれも被告人浜幸関係のみ)
一 売上高調査書(甲一六)
一 減価償却費調査書(甲一七)
一 消耗品費調査書(甲一九)
一 事業税調査書(甲二〇)
一 減価償却の償却超過額調査書(甲二三)
一 減価償却超過額の当期認容額調査書(甲二四)
一 その他所得調査書二通(甲二六、三七)
一 現金調査書(甲二七)
一 会長貸付金調査書(甲二八)
一 社長貸付金調査書(甲二九)
一 建物付属設備調査書(甲三〇)
一 工具器具備品調査書(甲三一)
一 減価償却超過額調査書(甲三二)
一 未払金調査書(甲三三)
一 未納事業税調査書(甲三四)
一 仮受金調査書(甲三五)
一 濱田厚進個人収支調査書(甲三八)
一 捜査報告書(甲四。被告人濱田関係のみ)
判示第一の冒頭事実について
一 商業登記簿謄本(乙二八)
一 閉鎖登記簿謄本三通(乙三五ないし三七)
判示第一の一の事実について
一 市原茂の質問てん末書(甲六二。被告人浜幸関係のみ)
一 脱税額計算書(甲二。被告人浜幸関係のみ)
一 修繕費調査書(甲一八)
一 雑費調査書(甲二一)
一 雑収入認容調査書(甲二五)
一 雑収入認容(未払金)調査書(甲三六)
一 証明書(甲五九。被告人浜幸関係のみ)
一 申述書二通(甲六〇、六一。被告人浜幸関係のみ)
一 押収してある法人税確定申告書(甲六、平成四年押第二七号の1)
判示第一の二の事実について
一 脱税額計算書(甲三。被告人浜幸関係のみ)
一 固定資産除却損調査書(甲二二)
一 押収してある法人税確定申告書(甲七、平成四年押第二七号の2)
判示第二の事実全部について
一 証人濱田比砂惠の公判供述
一 被告人濱田靖弘の検察官調書(乙二七)、質問てん末書三通(乙一八、一九、二一)
一 切詰英文(甲八七)、濱田比砂惠(七通、甲九四ないし九九、一〇一)、池田一昂(四通、甲一一一ないし一一四)、伊藤龍介(甲一一五)、倉持明枝(甲一一六)の各質問てん末書
一 売上高調査書(甲四一)
一 給料手当調査書(甲四二)
一 減価償却費調査書(甲四四)
一 消耗品費調査書(甲四五)
一 減価償却の償却超過額調査書(甲四九)
一 その他所得調査書二通(甲五二、五八)
一 代表者貸付金調査書(甲五三)
一 減価償却超過額調査書(甲五六)
判示第二の冒頭事実について
一 商業登記簿謄本(乙三八)
判示第二の一、二の事実について
一 雑損調査書(甲四七)
判示第二の一の事実について
一 脱税額計算書(甲九)
一 欠損金の当期控除額調査書(甲五一)
一 繰越欠損金調査書(甲五七)
一 押収してある法人税確定申告書(甲一三、平成四年押第二七号の3)
判示第二の二、三の事実について
一 事業税調査書(甲四六)
一 固定資産除却損調査書(甲四八)
一 減価償却超過額の認容額調査書(甲五〇)
一 未納事業税調査書(甲五五)
判示第二の二の事実について
一 脱税額計算書(甲一〇)
一 賞与金調査書(甲四三)
一 押収してある法人税確定申告書(甲一四、平成四年押第二七号の4)
判示第二の三の事実について
一 脱税額計算書(甲一一)
一 未払金調査書(甲五四)
一 押収してある法人税確定申告書(甲一五、平成四年押第二七号の5)
(法令の適用)
被告人濱田の判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役二年に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予することとする。
さらに、被告人濱田及び厚進の判示第一の各所為は被告人浜幸の業務に関してなされたものであるから、被告人浜幸については、いずれも法人税法一六四条一項により判示第一の各罪につき同法一五九条一項の罰金刑に処せられるべきところ、情状により同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により合算した金額の範囲内で被告人浜幸を罰金四〇〇〇万円に処し、被告人濱田の判示第二の各所為は被告人ワイエム商事の業務に関してなされたものであるから、被告人ワイエム商事については、いずれも法人税法一六四条一項により判示第二の各罪につき同法一五九条一項の罰金刑に処せられるべきところ、情状により同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により合算した金額の範囲内で被告人ワイエム商事を罰金五四〇〇万円に処することとする。
(量刑の理由)
本件は、被告人浜幸及び被告人ワイエム商事を統括していた被告人濱田が、事業拡張資金や被告人濱田の二男の治療費等を蓄える目的で、判示第一、第二の各犯行に及び、その結果、判示第一の被告人浜幸において、二事業年度にわたり、被告人濱田自身による脱税分合計七〇四五万六九〇〇円、厚進による脱税分合計八〇三三万五八〇〇円の総合計一億五〇七九万二七〇〇円の法人税を免れ、判示第二の被告人ワイエム商事について、三事業年度にわたり、合計二億〇六一五万〇一〇〇円の法人税を免れたという事案であるが、国民の基本的かつ重要な義務である納税の義務を不正な手段により免れようとしたばかりでなく、そのほ脱額が非常に多額で、ほ脱率も高く悪質であり、ほ脱の動機も後述の動機を除くほか格別酌むべき事情となり得ないことに照らすと、被告人濱田、被告人浜幸、被告人ワイエム商事の各刑事責任は重いものがある。
しかし、他方、本件犯行の動機の一つとして、再生不良性貧血という不治の難病に罹患した二男の骨髄移植手術等のための治療費の蓄積ということもあり、その限りにおいては同情の余地がないでもないこと、被告人浜幸及び被告人ワイエム商事においては、その後修正申告をし、本件ほ脱にかかる本税、延滞税、重加算税等を既に全額納付済みであること、被告人濱田においては、本件を反省し、捜査及び公判を通じて素直に犯行を認め、右両会社の代表取締役を辞任し、今後の公正な経理処理を実現する体制を整える努力をし、また、恵まれない子供たちの施設に寄付をする等の善行を現在行っていること、同被告人には業務上過失障害罪及び道路交通法違反罪による各罰金前科以外には前科がないこと、本件犯行がマスコミによって報道され、被告人らにとってある程度社会的制裁を受けたと言えること等被告人らに有利な諸事情もあるので、これらを総合して、被告人らをそれぞれ主文掲記の刑に処し、被告人濱田に対してはその刑の執行を猶予することとした。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 隅田景一 裁判官 久我保惠 裁判官 酒井康夫)